2020年、アメリカのトランプ政権が突如発表した「留学生受け入れ停止」措置。このニュースに衝撃を受けたのが、日本で活躍するハーバード大学出身のお笑い芸人・パックン(パトリック・ハーラン)です。
世界有数の名門大学で学び、多様性の中で育った彼の視点は、日本社会にとっても示唆に富んでいます。本記事では、「パックン」「ハーバード」「停止」という3つのキーワードから、教育の自由と国際交流のあり方について考えます。
パックンの経歴:異色のキャリアが示す多様性の力
パックンことパトリック・ハーランは、アメリカ・コロラド州出身。自然豊かな環境で育ち、子どもの頃から本好きで知的好奇心旺盛な少年でした。高校時代にはすでにスピーチやディベートの才能を発揮し、地元でも注目される存在だったといいます。
その後、世界最高峰の学府として知られるハーバード大学に進学。専攻は比較宗教学。この分野は、キリスト教、仏教、イスラム教など、世界中の宗教と文化の成り立ちを俯瞰的に学ぶ学問です。複数の価値観をフラットに捉えるこの専攻は、まさに彼の後の活動──多文化理解や国際交流、教育への思索──の基盤になっているといえるでしょう。
1993年、大学卒業後の進路として彼が選んだのは、日本への移住でした。最初の勤務地は福井県。日本語もまったく話せない状態で英語講師としてのキャリアをスタートします。異文化の中で奮闘する日々の中、やがて日本語を猛勉強し、わずか数年で高いレベルにまで習得。言葉の壁を超えた彼は、日本文化への理解も深め、やがて新たな道へと進みます。
1997年、お笑いコンビ「パックンマックン」を結成。当初は“英語芸人”としての色が強かったものの、彼の知性と日本語力、そして社会問題への関心はすぐに注目され、バラエティだけでなく報道・情報番組や教育番組への出演も増えていきました。テレビ朝日『朝まで生テレビ!』やNHK『英語でしゃべらナイト』など、硬軟取り混ぜた出演を通じて、「ハーバード出身のお笑い芸人」という異色のポジションを確立します。
さらに注目すべきは、パックンの発言には一貫して“多様性”と“相互理解”の重要性が込められていることです。日本で生活しながらも、アメリカとの比較を通じて社会の課題や可能性を指摘するスタンスは、彼の教養と実体験に裏打ちされたものであり、単なる“外国人タレント”とは一線を画しています。
例えば、教育や政治、メディアなどに関する発言には常に「多角的な視点」があります。母国・アメリカの制度を礼賛するわけでもなく、日本を過剰に批判するわけでもない。その絶妙なバランス感覚こそが、多くの視聴者や読者から信頼を集めている理由です。
現在はタレント業の傍ら、東京工業大学リーダーシップ教育院の特任教授として、次世代の人材育成にも力を入れています。学生たちには「世界に出よう」「自分の枠を超えて考えよう」と語りかけ、多様性の中でこそ成長があることを体現しています。
パックンの経歴は、単なる“変わり種”の成功譚ではありません。彼が築いてきた道のりは、「言語や国籍を越え、人と深く関わることの価値」「教育や対話によって社会をより良くできるという信念」を証明する生きたロールモデルなのです。

引用:日本タレント名鑑
トランプ政権による「留学生受け入れ停止」措置とは?
2025年5月、アメリカのトランプ政権が、名門ハーバード大学の留学生受け入れ資格を停止すると発表しました。新たに留学することができなくなっただけでなく、在学中の留学生も転校が必要になり、大きな衝撃が走りました。
この「停止」措置に対して、パックンは強い違和感を示しました。「教育は自由であるべきで、政治的な判断で機会を奪うべきではない。教授や留学生の思想とかも政府が審査しようものなら、独裁国家へ突き進むことになる。あってはならない。」という信念がそこにあります。彼はハーバードで学んだ経験から、国際的な視野を持つ若者の可能性を何よりも尊重しています。
ハーバードが象徴する多様性と教育の価値
ハーバード大学は世界中から優秀な人材が集まる、多様性の象徴とも言える教育機関です。留学生の存在は、学問の深化のみならず、文化的相互理解を促進する大きな原動力でもあります。パックンは、「もし留学生がいなければ、ハーバードの価値は半減する」と語ります。
その背景には、自身がハーバードで出会った多国籍の友人たちとの経験があります。異なる文化や宗教、価値観を持つ人々と共に学び、語り合った時間こそが、彼の現在の思想を形作っています。
パックンが語る、日本とアメリカの「教育観」の違い
パックンは、日本社会の教育や移民に対する考え方にも鋭い視点を向けています。アメリカでは、移民や留学生が国家の活力と見なされる一方で、日本ではまだ「外から来た人」という距離感が根強く残っていると指摘します。
「日本は優れた教育制度を持っているが、閉じたシステムに見えることもある。もっと国際的な視点で教育をとらえ、多様性を受け入れる土壌を育ててほしい」と語る彼の言葉には、日本社会への期待とエールが込められています。
教育と未来を「停止」させないために
パックンは、「停止」というキーワードを通じて、教育の自由、多様性、そして国際交流の重要性を訴えています。どのような政治的理由があろうとも、教育の機会を止めることは、未来への扉を閉ざすことにほかなりません。
彼の言葉は、教育が持つ本来の価値──人と人をつなぎ、異なる背景を持つ者同士が理解し合うきっかけとなる──を、あらためて私たちに思い出させてくれます。
まとめ:教育を「止めない」ことが未来を開く
「パックン」「ハーバード」「停止」。この3つのキーワードは、一見関係がないように見えて、実は現代の教育と国際社会のあり方を浮き彫りにするテーマです。
世界が不安定な時代だからこそ、教育を「止めない」こと、多様性を「閉ざさない」ことの大切さを、私たちは再確認すべきでしょう。パックンのように、境界を越えて学び、語り、伝える人々の存在こそが、未来への光を灯しているのです。
◇参考記事◇